Project 03
グリア細胞機能解明を目指した新技術の開発
CMOSイオンセンサを用いた非ラベル神経・グリア伝達物質イメージング法の開発
グリア細胞は、神経伝達物質の除去や細胞外イオン環境を制御して、シナプス伝達を制御し神経機能を精緻に調節しています。また、グリア伝達物質を放出することによって、シナプス伝達を直接制御します。近年、神経細胞やグリア細胞の活動に伴って生じる細胞外イオン環境(Na+、K+、Ca2+ 等)のダイナミックな変化が、神経細胞―グリア細胞間のコミュニケーションに大きな役割を果たすことが明らかになってきています。しかし、これらイオンや伝達物質の細胞外時空間ダイナミクスの実態には不明な点が多く残されています。最近、我々は豊橋技術科学大学(澤田教授)との共同研究により、CMOSマルチイメージセンサという新しいイメージング法を開発して、神経細胞・グリア細胞から放出される伝達物質や細胞外イオン環境変化を非標識で可視化することに成功しました。下図はCMOSマルチセンサ(CMOSイオンカメラ)の原理と、実際の海馬細胞外Ca2+変化のイメージング例を示しています。現在は、この方法をさらに発展させ、複数のイオン、神経伝達物質、グリア伝達物質を同時・非標識でイメージングする方法を開発中です。これにより正常や病態時における神経細胞・グリア細胞のコミュニケーションを明らかにしていきます。
代表論文
Doi et al, Sens. Actuators B Chem, 335, 129686 (2021). doi.org/10.1016/j.snb.2021.129686
ミクログリア移植及び置換技術の開発
ミクログリアの重要性が次々と明らかになっているが、ミクログリアを操作する方法はまだ無い。そこで、既存のミクログリアを非侵襲的に任意のミクログリアに置換する技術を開発し、ミクログリアの真の役割解明を目指している。下記図はヒトミクログリアの例である。先ずCSF1受容体拮抗薬ONでマウスミクログリアを除去後、同薬OFFでヒトiPS細胞由来ミクログリア(iPSMG)を非侵襲的に「経鼻移植」する。iPSMGは速やかに嗅球に侵入し、各脳部位に移動・増殖し、ほとんどがヒト型に置き替わった。iPSMGは微細な突起をもつラミファイド型で、少なくとも60日間はマウス脳内に生着した。この簡便、安定的、安全なミクログリア移植法開発により、ヒトミクログリアの性質解明が加速するとともに、薬物処理及び遺伝子改変ミクログリア移植に応用することで、新しい脳機能制御機構解明及び細胞治療法の開発が期待できる。
代表論文
Parajuli et al, GLIA, 69(10), 2332-2348 (2021). doi:10.1002/glia.23985
脳透明化によるグリアマッピング
グリア細胞は、1850 年代に病理学者 Rudolph Virchow 博士により、神経の間を埋める何らかの物質(細胞)として報告され、顕微鏡により観察されたその姿が模写されました。グリア細胞の染色手法や顕微鏡の精度などの技術向上に伴い、現在では蛍光色素で標識されたグリア細胞の姿・形が写真に納められ、またその機能は動画撮影により捉えられるようになりました。しかしながら、こうした情報は脳切片の撮影や、1視野あたりの動画撮影のため、平明上の情報に留まります。そこで我々は、本来立体的な組織である脳の 3 次元画像を撮影・作成することで、グリア細胞の立体的な位置情報を可視化、即ちグリアマッピングの作成を行っています。脳を透明化した後(図1)、3 次元画像の撮影を可能としたライトシート顕微鏡 (図2) を用いて全脳の撮影することで、蛍光標識されたグリア細胞の脳内での局在を明らかにできます (図3)。この技術を応用し、我々が研究している様々な病態モデルマウスにおいて、どのようにグリアマッピングが変化するかを明らかにします。